移民法案で日本の産業はどう変わる?

日本移民産業

はじめに

日本の人口は減少傾向にあります。

長期的にその国の人口が安定する合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子供の数の平均)のことを人口置換水準といいますが、先進国では2.1といわれるその水準を日本は1975年以降、ずっと下回っています。

赤ちゃん

それに伴い、15歳から64歳までの生産年齢人口が1995年に、労働力人口も1998年にピークを迎えて以降減少の一途をたどっています。

このままいけば、経済活動に困難をきたし産業は衰退、国としての存立も危うくなるかもしれないという不安が出てきています。

そんな中で、この問題への対策として浮上してきているのが「移民受け入れ」という考えです。

 

「移民法案」騒動

現在進んでいる少子化について、2012年時点で1億2070万人の人口が2110年には4286万人に減少するという試算が、国立社会保障・人口問題研究所から出されています。

これに対して、2014年2月24日、政府の経済財政諮問会議・専門調査会「選択する未来委員会」の第3回会合に「年間20万人の外国からの移民を受け入れ、さらに出生率が回復すれば、100年後においても1億人超の水準を維持できる」とする試算が内閣府より報告されました。

2015年以降に年間20万人外国からの移民を受け入れ、さらに合計特殊出生率が2.07まで回復するとの前提での試算で、2110年の日本の人口は1億1404万人になる。(朝日新聞2014年2月25日より抜粋)

しかし、これをもって「政府が移民受け入れを検討し始めた」と報道されていることに対し、菅官房長官は記者会見で否定します。

菅義偉官房長官は14日午前の会見で、政府が移民の大量受け入れの検討に入ったとの一部報道について、「政府としてそうしたことを決定した事実はない」と否定した。(朝日新聞2014年3月14日

この一方で、政府・連立与党は3月11日、衆議院に「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案」を提出していました。

国会

外国人の在留資格の整備と、観光で来日する外国人に対する入国管理業務を円滑化するという内容の法律ですが、そのうちの在留資格の改定がこの法律の目玉となっています。

その内容とは「高度な専門技能をもった外国人が、一定の条件を満たしたうえで3年以上経過すれば、無制限の在留を許可する」というものです。

また、この在留を許可された外国人に対しては「配偶者の就労」「親や家政婦の同行」も認められています。

この内容に対し、外国人移民に対して慎重な考えをもつ人々からは「事実上の移民法」との指摘が出て、反対の声があがりました。

法案は5月29日に衆議院、6月11日に参議院で相次いで可決・成立しました。

しかし、実際のところはどうなのでしょか?

2月24日の「選択する未来委員会」会合における「移民受け入れ」騒動の実態については、会合開始時に内閣府・羽深統括官より行われた配布資料に対する説明と、委員の一人である公益社団法人日本経済研究センター理事長岩田一政氏の提言及び第1回会合時の提出資料から起こったものと思われます(第3回「選択する未来委員会」議事要旨より)。

ここで、羽深統括官は岩田委員の提出資料を参照のうえで、議論のベースとすべく、人口対策を行わない、出生率対策が成功した場合、さらにそれに移民を受け入れた場合、の3条件をグラフ化したと発言しています。

ただ、この回の議論を見る限りでは、確かに「移民」という問題提起はなされているものの、それを実施するうえでの前提となる基準は今後の課題としていますし、それ以上に女性の社会進出の問題や産業の面、特に対外的に投資しやすい国にするには、といった議論に時間が割かれているようにも思えます。

朝日新聞が5月20日付で「福島第一の原発所員、命令違反し撤退」の誤報の件にもいえることですが、その一部を切り取ってどこかのマスコミ(もしくはネット)が大騒ぎしているように見受けられます。

この会合に出席した政権関係者の誰一人として、移民に「前向き」な発言をしているようにはとらえられませんし、産業界、財界その他から積極的な働きかけが行われているという形跡もみてはとれません。

さらにいえば、先述の「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案」についても、内容をよくみると、これにより「高度人材」を称する「偽装移民」が増加するという、巷の主張は当てはまらないような気がします。

法務省のHPに「高度人材」が実際にどれだけ日本を訪れているのか、詳しい資料があります(在留外国人統計)。

これによると、該当する人材は2013年12月末で、本人から使用人まで含めても2000人に満たない数です。

定住の基準は緩和したとしても、その資格の基準は緩和されていませんので、現時点から推察してこの2000人未満が数万人規模になるのは理論的に無理があります。

このように、現時点では大規模な移民受け入れに向けて政府が動いている、というのは当てはまらないといえます。

 

「移民受け入れ」……簡単に進められない理由とは?

では、仮に、「移民受け入れ」という流れがくっきりと打ち出された場合、どうなるでしょうか。

単純に産業衰退を防ぐ目的だけで「移民法」を成立させ、「さあ、いらっしゃい!」というわけにはいかない理由があります。

特に、既に移民受け入れを行っている各国が直面していますが、既存の国民との「対立」をできるだけ起こさないようにしなくてはなりません。

移民が持ち込んだ「これまで住んでいたところの文化や考え方」をどこまで許容するか?

日本の場合は宗教などについては比較的寛容なところはありますが、慣習や考え方に関しては果たしてどうなのか。

これまで持っていたものを日本の風土にあわせさせるには、当然移民への教育が必要ですし、そのための制度や施設、人材等を準備しなくてはなりません。

さらに受け入れる日本の側についても、近年問題になっている「ヘイトスピーチ」のような事態がさらに過激化したり、人種・文化差別が横行しないような対策、日本の慣習・文化を拒絶し治安を乱すような人材を取り締まるための法体系や人材、制度などを準備しなくてはなりません。

経済的な面においても、移民と日本人の間の就業条件の格差など、対立の火種になりかねないものについて、施策を講じなければなりません。

これらについて、現時点においては何もなされていないのが現状です。

周辺の法や制度を整えることなく「移民法」を推進しているとすれば、それはまさに国にとっての「自殺行為」そのものになります。

 

「移民法が成立」する前提での産業への影響

前述の環境がある程度整ったという前提のうえで、産業に与える影響はどうなるでしょうか。

2014年時点での日本経済の一つの問題として、人手不足があげられます。

建設

特に製造業や建設業などでは、長引く不景気で人材採用を抑制してきた反動と「団塊の世代」の定年退職、さらに東日本大震災からの復興需要などが理由になり、人手不足が伝えられています。

これらの業界はかつてバブル時代には「3K(汚い、きつい、危険)」のレッテルを貼られて、若年層から敬遠されたことがありました。

その当時と違い、現在ではITを駆使した業務も広がっていることから以前ほどの敬遠はないように見えますが、それでもやはり相応の「きつい」現場仕事は存在しています。

その人手不足の穴埋めをしてくれることを期待する向きも事実存在しています。

1950年代のドイツなどでは、戦後復興などのためにこれらの業種に従事する労働者を海外から募集していた時期もあり、それなりに成果をあげたこともあったということからいわれているのでしょうか。

しかし、現在では実質的にこの類いの外国人労働者募集は停止されており、似たような政策をとった欧州、アジア諸国などでも現在では「熟練労働者」のみの移民を奨励しています。

日本だけ、諸外国の例を無視して、移民にこれらの労働力を期待するのはどうでしょうか。

仮に諸外国のように、「熟練労働者」に絞った場合、既存の国民との間で就業をめぐる「パイ」を取り合うことになり、国内の就業競争は激しくなると思われます。

当然ながら就職のための技能などは、今よりもハードルが上がることは避けられなくなるでしょう。

それが良い方向に進めば上記の業界のみならず、あらゆる業界で、技術面も含めてこの国に「新たなイノベーション」をもたらすことになりますが、最悪そうならなかった(日本人の就業率の低下など)場合の対策も考えておかねばならないのは必須かと思われます。

 

おわりに

正直な感想を述べると、現時点で日本に「移民法」を導入するのは時期尚早ではないかと感じられます。

国際化は避けられない問題であることは誰もが認めるところですが、前述したような事前に行っておくべき事柄について、あまりに議論がなさすぎます。

「20万人受け入れ」の数字だけ出ていますが、それを行うための課題については何一つ具体的な提言はなされていません。

一応株価や地価などが回復し、景気上向きの判断がなされている昨今ですが、いつまたそれが崩れるとも限りません。

それを念頭においたうえで、「移民政策」実施の有無も含め、少子化・国際化が進むなか、日本がどういう国として生き残っていかねばならないか、具体的戦略を早急に建てなくてはならないと思います。



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